映画『チルド』と日常に潜む虚無の乗り越え方

迫りくる虚無には生サウナで対抗
五箇公貴 2026.08.09
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先日映画を見ました。岩崎裕介監督の『チルド』です。

ジャンルはホラーと言っていいと思います。コンビニに勤める30くらいの男性主人公とその同僚を中心に物語は進んでいきます。映画は主人公が冷蔵庫に陳列されているサラダチキンを眺めているところから始まります。舞台となるコンビニではひたすらテンプレソングが流れていて、そこには温度が感じられません。常に誰かがオフビートな苛立ちを通奏低音のように滲ませていて、それが他人への小さな悪意としてスパークする。その小さな火花がやがて大きな炎として各所で大火事を引き起こす。その後に広がる虚無。その虚無が本来は普通の人だったはずの人々を狂わせていく。その負のスパイラルはXで日々目の当たりにしている世界のようでゾッとしました。

最初は血が通っていた主人公がどんどん崩壊していく様を演ずる染谷将太さんの演技の凄み、ヒロインの唐田えりかさんのこういう子を好きになるよなという塩梅、西村まさ彦さんの人が徐々に狂っていく過程を見せる細かい芝居の積み重ね。他の俳優さんたちの不気味さ含め、演技を見ているだけでも文句なしに面白かった。

この映画の凄いのはオフビートなホラー映画ではなく、温度が高く芯を食っていて(雰囲気ものでは決してない)すごい緩急と編集テンポで事象を見せて来るので、要所要所で起こる悲惨な場面でも思わず笑ってしまうところなんです。この笑いが温度の高さとエンターテイメント性を担保しています。これはなかなかできることではありません。見ていて、松本人志さんの名作「ビジュアルバム」を想い出しました。松本さんが映画でやりたかったことってこういう事なのかもな…。岩崎監督、末恐ろしいです。

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リミナルスペース(Liminal Space)という言葉が良く使われています。AIによると「何かと何かの間にある場所や状態」を指す言葉で、特に人がいるはずなのに誰もいない場所や、現実なのに夢の中のような不思議な雰囲気の空間を指すことが多いそう。また「日常なのに、どこか現実離れしていて、懐かしくも不気味な『境界の空間』」ともいえます。映画『8番出口』もリミナルスペースを舞台にしていましたね。最近ではネットミームの「バックルームズ(Backrooms)」A24が映画としてリメイクしたのが話題になっています。

「チルド」をみてコンビニは完全にリミナルスペースだと思いました。そしてリミナルスペースはすなわち「虚無空間」ってことなんだと改めて認識しました。

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虚無との闘い。

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